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大物主神の山─記紀の三輪山


◆大物主神の三つの顔

三 輪 山 の 祭 神─

 三輪山は山自体が御神体とされ、大物主神を祀る大神神社には今も拝殿のみで本殿がない。日本神話では、海を照らして来臨し、御諸山(三輪山)に鎮座したとされる。大国主神との関係が深い神で、国作りの場面などに登場する。


─祟 り神─

 記紀の崇神天皇の条では、国に疫病をもたらす祟り神として登場。崇神天皇は、大物主神の子孫意富多々泥古を探して祀らせることによって、大物主神の祟りを鎮めた。

  大物主大神(おおものぬしのおおかみ)
   │
   ├──○──○──○──意富多々泥古 (おおたたねこ)
   │
  活玉依毘売(いくたまよりびめ)


─美 し き 蛇 神─


 古代の蛇神は、雷神・水神など様々な農耕との関わりが深い。また、古事記では活玉依毘売、日本書紀では倭迹迹日百襲姫との神婚説話がある。



◆三 輪 山 説 話◆


 正体不明の美しい男が女のもとに通ってくる。女は男に内緒で服に糸をつけ、それによって男の正体を知るという内容が基本型の説話。異類婚姻譚の一種で、記紀の大物主神の神婚説話や後世の昔話など、基本型から変化したものも含めて「三輪山説話」と呼ぶ。


─記紀の三輪山説話─


 三輪山の蛇神大物主神の神婚説話でも、古事記と日本書紀では、表のように、妻となる女主人公が違うことから始まり結末に至るまで内容が異なる所も多い。


─古事記の三輪山説話─

「訂正古訓古事記」


 活玉依毘売(陶津耳命の子)のもとに、正体不明の麗しい男が夜ごとに訪れ、やがて娘は懐妊する。
 怪しんだ両親は「赤い土を床に散らし、へそ(麻の糸巻)の紡麻(つむいだ麻の糸)を男の衣の裾に刺しなさい」と教える。
 夜が明けてみると、糸は戸の鍵穴を通って三輪山の社の所で終わっていた。そこで初めて、娘は男が大物主神であることを知る。
 その時、戸の内には麻糸が3巻残っていた。そこで、その付近を「三輪」と呼ぶようになった。(古事記・崇神天皇の条より)


─日本書紀の三輪山説話─

「寛文九年版日本書紀」

 倭迹迹日百襲姫(やまとととひももそひめ・孝元天皇の子)は、大物主神の妻となったが、大物主神は夜しか訪れないため、姿をはっきりと見ることができなかった。
 そこで、姫は朝までいて姿を見せて欲しいと懇願すると、妻の願いを聞き入れた神は、「明日の朝、櫛箱の中にいる。自分の姿を見ても決して驚くな」という。
 翌朝、櫛箱の中にいたのは、下紐ほどの小さくて美しい蛇であった。姫は驚いて声を上げてしまう。
 大物主神は、恥じて人の姿に戻り、姫を恨んで「おまえにも恥をかかせてやる」といって、空へ上って三輪山へ帰ってしまった。
 姫は後悔して座り込んだところ、箸が陰部に刺さって死んでしまった。
 そのため姫の墓は「箸墓」と呼ばれた。この墓は、昼は人が造り、夜は神が造ったという。(日本書紀・崇神天皇10年9月の条より)


◆巳の神杉(みのかみすぎ)◆


巳の神杉


 三輪の杉は古来より神聖な霊樹として尊ばれていたらしく、万葉集にも以下のような歌がみられる。
 
  味酒を 三輪の祝が 忌ふ杉 手觸し罪か 君に逢ひ難き    (巻四・七一二番)

    三輪の神官が神木として崇めている杉に手を触れた罰でしょうか、あなたに逢えないのは

 写真の杉は、拝殿前の「巳の神杉」で、この杉には「巳さん(蛇神)」が宿るとされ、江戸時代には、雨乞いの時に里の人々が集まり、この杉を祈ったという。現代でも、この杉の前には、巳(みい)さんの好物とされる卵が酒とともに供えられている


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